大船渡市日頃市町に建設された多目的ダム・鷹生(たこう)ダムは、全国でも珍しい地産地消のダムとして知られています。ここでは、水害防止や農業用水・水道用水確保のほか、観光施設としても役立っている鷹生ダムについてご紹介します。
ダムの概要
ダム本体(堤体)の諸元は以下のようになっています。
型式:重力式コンクリートダム
高さ:77.0m
長さ:322.0m
体積:328千立方m
総事業費:324億円
貯水池の概要
堤体によってせき止められている湖(五葉湖)の諸元は以下の通りです。
流域面積:17.0平方km
湛水面積:0.39平方km
総貯水量:9,680千立方m
有効貯水量:9,000千立方m
完成までの歴史
昭和53年:予備調査開始
昭和60年:実施計画調査開始
平成元年:ダム建設採択。国庫補助事業としてスタート
平成4年:県道付替工事着手、水没家屋8戸の移転完了
平成5年:市道付替工事着手
平成6年:滝の沢橋完成、記念カプセル埋設
※当時の日頃市中学校生徒が埋めたカプセルは、2030年3月に開封予定だそうです!
平成10年:県道付替工事完了、ダム本体工事着手
平成13年:堤体コンクリート打設開始
平成14年:市道付替工事完了
平成16年:堤体コンクリート打設完了
平成17年:試験湛水の開始
平成18年:サーチャージ水位(洪水時の最高水位)到達、竣工式
環境への配慮
鷹生ダム周辺は五葉山県立自然公園に隣接しており、湛水区域の左岸(下流に向かって左側)の一部が公園内に入っています。絶滅危機種であるイヌワシの営巣地が確認されたことから、イヌワシ保護策が取られました。冬期間はイヌワシの営巣期・抱卵期にあたること、原石山の発破の音の影響が大きいことから、冬場の作業中断を決めたのです。
また、計画していたケーブルクレーンによるコンクリート運搬では、新たに大規模な地山の切り取りをしなければならないこと、運搬に使用するワイヤーロープがイヌワシの飛翔に影響する可能性があることから、施工した清水建設・熊谷組・佐賀組JVが、全国に例のないライジングタワーを開発し、コンクリートを運搬しました。
地産地消ダム
ダムの建設された日頃市町はもともとセメントの原材料である石灰石が産出される土地であり、コンクリート骨材となる砂利・砂は堤体付近にあるダムの原石山から、水も近くの沢から取水したため、提体等に使用したコンクリート材料全てを地元産でまかなうことができ、このことから鷹生ダムは「地産地消ダム」とも呼ばれました。
水没戸数8戸
ダム建設により移転の対象となった家屋は8戸ありました。集団移転した移転先は町外であったと思われますが、先祖伝来の地を離れることにやりきれなさもあったと推察します。ただ、移転させられた上に計画が白紙になったケースも全国で見られることから、計画を完遂したという意味で納得感は得られたのではないかとも思います。
地域貢献
施行者である岩手県は、事業を通して地域と良好な関係を築きました。地域にある建造物や文化、人、景観などをつなぎ、町そのものを博物館に見立てて宝探しする事業や、郷土料理を実際に作りつつ、レシピとして書籍を残すといった活動を行い、さらにはグラウンドゴルフ大会や五葉山登山、ヤマメ稚魚の放流会など、地域と一体になって様々な活動を行ってきました。
ダム関連設備
ダム右岸広場
堤体付近の県道沿いにあり、植栽のほか駐車スペースとトイレがあります。
ダム左岸広場
右岸広場から天端を通って反対側にある駐車スペースです。
管理用発電所
ダム放流水により発電し、設備管理に利用しています(最大出力:280kw)
多目的広場
五葉温泉隣接の芝地で、グラウンドゴルフなどに利用できます。
第2多目的広場
ダム右岸広場付近にある、砂利敷の広場です。
鷹生ダム管理所
ダムの展示室とトイレが併設されています。
ひころいち広場
ダム管理所そばの広場で、散策できます。
草壷広場・親水水路
通常は立入禁止。ならばなぜ作ったのか、謎です。
周辺施設・観光地
周辺には紅葉の名所として知られる大沢渓流があり、散策にもってこいです。また、ダムは周囲4kmほどあるため、散策のほか、ジョギングやサイクリングに適しています。汗をかいた後は、三陸沿岸初の天然アルカリ温泉「しゃくなげの湯っこ 五葉温泉」で入浴と食事が楽しめます。
そして、毎年7月には「五葉湖畔の集い」というイベントが開催されます。この日はダムの内部を見学したり、湖面をボートで遊覧したりといったレアな体験ができるほか、夏休みの工作にピッタリの木工教室や、アユのつかみ取りなど盛りだくさんの内容です。
ちなみに・・ダム湖である五葉湖には魚がいると思われますが、草壷広場や親水水路と同様に立入禁止となっており、湖面へ降りていくことはできないため、釣りはできません。
おわりに
いかがだったでしょうか。鷹生ダムは、最新の技術と細心の注意、そして多くの人の協力によって完成した、インフラの傑作と言えるのではないでしょうか。