大船渡随一の観光名所である碁石海岸ですが、山地が海に沈みこんだリアス式海岸であることから、海岸沿いに小さな島・岩礁が点在しています。変わった名前の島も多いのですが、中でも目を引くのが「アンコアキラメロ岩」でしょう。
アンコアキラメロ岩とは?
アンコというのは「お兄さん」という意味で、兄弟に対しても若い男性に対しても使われるのは標準語と変わりありません。
元は「倉ガゲ」とも呼ばれていたそうですが、何故「アンコ」に「アキラメロ」という奇妙な名がついているのでしょうか。それにはこの岩にまつわる、兄弟の悲しい物語があったのです。
兄弟を襲った悲哀の物語
昔、碁石浜の近くに二人の漁師の兄弟が住んでいました。二人は大変仲が良く、何をするにもいつも一緒で、近所の人々からも羨ましがられるほどでした。
ある日のこと、兄弟はいつものようにそろって浜へ出ようとしましたが、2,3日前からの時化のため波が荒かったので、碁石の岬の上にある松林へ松葉かきに出かけることにしました。碁石海岸は「日本の白砂青松100選」に選ばれるだけあって松が多いのですが、当時落葉した松葉は薪の焚き付け用に、枯れ枝は薪として使われていたのです。
その松林は部落の共有林で、松葉かきをするにはウニやアワビのように口開け(解禁日)を待たなくてはなりませんでしたが、倉ガケの途中に大きな松の枯木が倒れているのを見つけたので、それを拾おうと弟が兄を誘ったのでした。
二人は長い荒縄を持って出かけました。倉ガケに到着し、目もくらむ高さの絶壁から見下ろすと、大きな松の木が、ややなだらかになった岩と岩の間に倒れていました。
兄は縄を体に巻き付けると、岩を伝ってゆっくり降りていきました。岩の下には荒波が渦巻いています。
「アンコ、気をつけろや」
弟は大声で注意し、兄はようやく松の木のところまでたどり着きました。兄は体に巻いた縄をほどくと、今度は松の木に結び付け、弟に引き揚げるよう合図しました。弟が縄の端を立木の根元に縛り付けようとしていると、突然崖の下から兄の悲鳴が聞こえてきました。見ると、荒れ狂う大波と戦いながら、兄が必死に岩礁にとりすがろうとしています。
仕事が一段落した安心さもあったのか、一息ついて、そこから一歩上に登ろうとした際、足を踏み外して海に落ちてしまったのです。
「大変だ!」
弟は大声で叫びましたが、あたりに人影はありません。縄を投げおろそうにも、下までは届きそうにありません。舟を出そうにも、この一帯は至るところ巨岩のそそり立つ絶壁の連続で昔から舟の難所となっており、難破して助かった者は一人もいないというほどの場所でした。そもそも、舟をまわすだけの余裕もひまもないのです。
『漁師にとって絶望の地』という古老の言葉が、いまさらのように弟の脳裏をかすめます。
弟は地団太を踏み、声を限りに叫びまわりました。そして絶望のあまり、頭をかきむしりながら号泣しました。海鳴りの合間から助けを呼ぶ兄の声が、途切れ途切れに聞こえてきます。
弟は、手にした荒縄を握りしめ、オイオイと男泣きしながら叫びました。
「アンコ、アキラメロ、あきらめてくれ・・・」
おわりに
「アンコアキラメロ岩」という奇妙な名にまつわる哀話をお伝えしました。
ちなみにこの場所、「アンコアキラメ崖」とも呼ばれるそうで、穴通磯から湾口防波堤に通じる道筋にあります。車では通行できず散策コースからも外れるので、付近の立ち入りにはご注意を!